一昔前に流行った英語の聞き流しですが、現在ではその効果があまり有効でないことが明らかになってきたのか、すっかりと息を潜めている感があります。
聞き流しはほとんど効果がないというのが私の現時点での見解です。
かなり限定的な条件の下で行えば効果を生み出せる可能性がありますが、我々のような大多数の中級者〜中上級者の人が行うにはあまりにも非効率です。
それどころか、聞き流しを行うことによるデメリットの方が大きい場合があります。
今回は、なぜ聞き流しは英語学習としてあまりおすすめできないのかを説明していきます。
【予備知識】リスニングに必要な2つの能力
まず、聞き流しの説明をする前の予備知識として、リスニングに必要な能力は大きく分けて2つあります。
- 英語の音自体の違いを聞き分ける能力
- 聞き取った情報から瞬時に内容を把握する能力
それぞれ解説していきます。
【リスニングに必要な能力①】英語の音自体の違いを聞き分ける能力
❶の能力に関しては、多聴や精聴に取り組む前の準備段階として、まず英語のすべての音を覚える必要があります。
このタスクをこなすには、素直に専門的な解説書を読むのが手っ取り早いです。
英文を読むのが目的ではないので、無理に英語の本を読む必要はありません。
このステップはさっさと終わらせて、早く多聴に取り組みたいので、むしろ日本語の本の方が余計な労力を使わなくて済むのでおすすめです。
私はまず、DVD&CDでマスター 英語の発音が正しくなる本という本で発音の基本をおさらいしてから、多聴に取り組みました。
リスニングの大前提として、自分が発音できない音は聞き取りにくいということがあるので、このステップは軽視せず結構みっちりやる必要があります。
中級者以上の人でも新たな発見や気づきがあるブヒな!
うん、そうだね。一度学び直すのも悪くないよ
【リスニングに必要な能力②】聞き取った情報から瞬時に内容を把握する能力
❶の能力がある程度上がると、今まで雑音が一本の線で繋がって聞こえていたような英語の音声が、単語ごとやチャンクごとに粒立って聞こえてくるようになります。
しかし、いくら英語の音自体が明瞭に聞こえるようになっても、❷の能力が伴っていないと、せっかく受け取った情報をうまく処理できません。
リスニングの内容を瞬時に理解するには、
- 語彙力(ボキャブラリー)
- 文法の知識
- 読解力(前後の文脈から正しい意味を読み取る能力)
- 背景知識(教養・インテリジェンス)
が必要になりますが、これらの能力はリスニング以外の学習で向上させる必要があります。
実際には多読で全ての能力をカバーできます。
やはり、英語学習の基本は多読ということになってきます。
必要に応じて精読も取り入れよう
なぜ聞き流しは効果がないと言われるのか?
リスニングは内容に意識を向けることで初めて効果がある
前章で説明した通り、リスニングにおいて、音を認識する能力と瞬時に情報を処理する能力、どちらの能力が欠けていても、その効果を十分に得ることができません。
聞こえた英文と理解した(または理解しようとしている)内容が脳内で紐付くことを何回も繰り返すことによって、徐々に英語脳のネットワークが広がっていきます。
AIのディープラーニングに近いブヒな
なので、ただBGM的にラジオの英語放送などを1日中流してもほとんど効果はないでしょう。
実際には、不意に興味のある話題になった時など、所々集中度が瞬間的に上がることはあると思うので、その限られた時間の範囲では効果があると言えます。
この時大事なのは、内容を完全に理解ができるかどうかではなく、内容を理解しようと音声に意識を向けているかどうかです。
実際、いくら集中して聴いていても、常に内容を100%理解するのは困難です。
しかし、内容の理解に努めながら聴いて理解できないのと、最初から理解しようとして聴いていないのでは意味合いがまるで違います。
理解できないことを理解しようとすることによって、脳が解決すべき問題として一旦持ち帰り、睡眠時に情報を整理して、翌日には昨日より理解できるような形で出力してくれます。
この例はやや極端ですが、継続して課題に取り組むことによって、昨日よりは今日、今日よりは明日と、着実に前進していきます。
英語の音に慣れるという効果?
聞き流しの効果でよく言われるのは、リスニング力アップの効果はあまりないが、英語の音に慣れる効果はあるというものです。
しかし、私はこの効果には懐疑的です。
まず、英語の音に慣れるということの定義が曖昧です。
基本的にリスニングは音声に限っていえば、聞き取れるか(音を認識できるか)・聞き取れないか(音を認識できないか)のどちらかしかないと思っています。
音は聞こえるけど、意味がわからないというのはまた別の話だね
なので、英語が聞き取れる状態と英語の音に慣れている状態を切り離して考えるということに矛盾を感じます。
英語の音に慣れている状態というのは、すなわち英語の音がよく聞こえる状態ということです。
英語の音に慣れているのに英語の音が聞き取れないというのは道理に適っていません。
これはただの推測ですが、おそらく、「英語の音に慣れる」という表現は、一定数存在する楽して英語をマスターしたいと夢見ている層の人たちに向けて生み出されたキラーフレーズなのではないかと邪推してしまいます。
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海外留学で経験するブレークスルーは英語のシャワーとは無関係
あとよく言われるのは、留学すれば毎日英語のシャワーを浴びて、数ヶ月後にブレークスルーが訪れるというものです。
確かに留学などで英語環境に身を置けば、英語力が格段にアップする可能性があります。
しかしそれは、無意識的に環境音のような英語を毎日聞いているからではありません。
その理屈ですと、日本でも英語のテレビやラジオの放送を1日中流し続けていれば、いつしか英語がわかるようになるということになってしまいます。
それではなぜ海外に住むと英語力が飛躍的に向上する人がいるのでしょうか?
それは自分にとって意味のある英語を聞きまくっているからです。
海外に住む、特に単身で移住した場合は、基本的に自分のことはすべて自分で行う必要があります。
- 日々の買い物
- 銀行口座の開設
- 携帯電話の契約
- 運転免許試験
- 病院
- ヘアサロン
- 学校入学の手続き
- 学校の授業・宿題・テスト
- プレゼンテーション
など、日本にいるときとは比べ物にならないほど、自らの英語力を試される本番のシーンが何度も訪れます。
そして当然ですが、内容をすべて理解しないと生活していけません。
もはや、自らの英語力が生死の鍵を握っているといっても過言ではないでしょう。
この時の、「一語一句聞き逃すまい」というサバイバルを賭けた状態の人間の集中力と底力のブーストは凄まじいです。
そのような覇気と執念で毎日英語を聞いていれば、それは上達せざるを得ません。
逆にいうと、何年英語圏の国に住んでいようと、意識的に英語に関わろうとしなければ、いつまで経っても英語は上達しません。
実際、私がアメリカに留学していた時、近所に韓国人のおばあさんが住んでいたのですが、その人は現地に10年以上住んでいましたが、英語が全くしゃべれませんでした。
英語が話せる娘さんと一緒に暮らしていたので、そこまで英語を真剣に使う必要が無かったのでしょう。
でも、会うといつも笑顔で挨拶をしてくれて、たまに自家製キムチなどをおすそ分けしてくれたよ
ただ不思議なことに、私はそのおばあさんと全く言語を介さず、ジェスチャーやごく簡単な英単語(と私がかろうじて知っている申し訳程度の韓国語)のみで結構意思の疎通を図ることができました。
コミュニュケーションというのは、必ずしも語学の流暢さだけではなく、あくまでも心と心を通わせる行為なのだなと実感したのを覚えています。
聞き流しを行うことによって生じるデメリット
やった気になる
聞き流しは、基本的に長時間英語の音声を聴き続けることが多いです。
リモートワーカーの人は、仕事中に一日中英語放送のラジオやYouTubeの英語チャンネルを流しっぱなしにしていることもあるかと思います。
ただ残念ながら、前章でも説明した通り、聞き流しにはほとんど効果はありません。
しかし、長時間英語の音を聴いているという状況から、ものすごく英語をやったという感覚に陥ります。
効果のないものをいくら長時間やっても、それはやっていないのと同じです。
ただ、意識は向けていなくても英語の音声が流れているという状況は認識しているので、自分の中で正当化されてしまいます。
なので、仮に聞き流しを行ったとしても、日々の英語学習のタスクとしてカウントしないようにしましょう。
しっかり予定を組んで行うある程度集中が必要な学習だけをタスクとしてカウントするようにしよう
ワーキングメモリを無駄に消耗する
ワーキングメモリとは、会話・読み書き・計算などの行動を2つ以上同時に行う際に、必要な情報を短期的な記憶として脳に保存し、同時並行的に処理・実行する能力(またはキャパシティ)のことです。
キャパシティの大きさには個人差がありますが、同時に行うアクションの数や負荷が増えると、必要な消費容量も増えます。
ワーキングメモリは酷使することよってそのキャパシティは徐々に下がっていき、十分な睡眠を取ることによって回復します。
これが、生産的な活動は朝にするのが良いと言われる所以だね
例え意識を向けていない聞き流しだとしても、脳は知覚した刺激(音声)をバックグラウンドで処理しようと試みていますので、常に一定の負荷が掛かっている状態になります。
なので、朝からずっと聞き流しをしていると、いざメインの学習をしようとした時に、すでに脳が疲弊してしまっているので、学習効率が著しく下がってしまいます。
栄養のないお菓子でお腹をいっぱいにするようなもんブヒな
これでは本末転倒になってしまいますので、ワーキングメモリには限りがあるということを認識し、その貴重なリソースを有効に分配するように心掛けることが大事です。
集中しないで聴く癖がつく
聞き流しを日常的にしていると、高い集中を要する多聴や精聴をする際も、聞き流しをしている時のぼーっと聴く癖が出てしまい、うまく集中できなくなることがあります。
脳が、英語音声 = BGM(何か作業をしながら何となく聴くもの)と認識してしまっているからです。
真剣に聴こうとしても、脳内でリスニングに対する集中度の乱高下が発生し、意味のある音声と雑音との間を行ったり来たりしてしまいます。
なので、英語のリスニングをするときは、毎回ある程度集中できる環境で意味を理解しようとして聴く、というのを習慣付けることによって、脳の中での重要度(緊急度)が上がり、集中して聴くことが容易になります。
聞き流しで多少効果が得られるのではないかと思われるケース
ここまで散々効果がないと断言してきた聞き流しですが、ある条件下では限定的に効果がある可能性があります。
ただ、条件に当てはまるからといって、目覚ましい効果が期待できるということではないので、無理に行う必要は全くありません。
一度多読または精読した洋書のオーディオブック
リスニング力向上には反復練習が非常に有効です。
ただし、何でも反復すれば良いというわけではなく、すでに内容を理解している素材を繰り返し聴くことによって理解度が増幅されます。
そこでおすすめなのは、一度完読した洋書のオーディオブックを繰り返し再生することです。
すでに内容は知っているので、何となく聴いていても意外と頭に入ってきますし、断続的に集中のON・OFFがあっても、ストーリーを追う必要がないのでストレスになりません。
聞こえてきた箇所だけをピックアップするというスタンスで十分だよ
また、小説のオーディオブックであれば、平均して10時間前後はあるので、長時間の再生に耐えうるボリュームです。
お気に入りの本であれば何度聞いても飽きないですし、回を重ねるごとに新たな発見もあり楽しめます。
また、プロのナレーターによる朗読なので耳障りがよく、長時間聴いていても負担になりにくいです。
一度観た映画・海外ドラマ
一度完読した洋書と同様、一度観た映画や海外ドラマもおすすめです。
ただし、これを行う場合は事前にスクリプトを入手し、すべてのセリフを確認する必要があります。
内容を100%理解する必要はありませんが、最低限どのようなことを言っているかは確認し、音声とセリフをリンクさせましょう。
そういう意味では、映画よりもシットコムなどの30分の海外ドラマの方がやりやすいです。
あるいは、この映画が大好きで何回も観ていて、ほぼ全てのシーンがすでに頭に入っているという場合であればそちらでも構いません。
ただし、映像作品はセリフ以外の演出部分が多いので、やはりオーディオブックの方が聞き流しには向いています。
また、映像を同時に流しているとそちらが気になってしまい、本来やるべき作業に支障をきたす可能性があるので注意しましょう。
音声のみで再生するのがおすすめブヒな
ネイティブ並みの超上級者
これは当たり前といえば当たり前なのですが、ネイティブ並みに英語が堪能な人であれば、日本のラジオ感覚で聴けるので、何となくでも結構頭に入ってきますし、省エネで聴き続けることができます。
残念ながら、私はまだこの領域に達していないため、実際の感覚として伝えることができないのですが、すでに超上級者の人が英語力維持のために行う低負荷のトレーニングとしては、一定の効果があると考えます。
もはや「トレーニング」という意識もないと思うけどね
あえて聞き流しはやらないという選択も
以上の通り、聞き流しにはメリットがほとんどありません。
それどころか、聞き流しを行うことによって生じるデメリットの方が大きい可能性があります。
耳が空いているんだから何もやらないよりかはマシでしょ
と思うかもしれません。
実際私もそのように思って、一日中Podcastを流していた時期もありました。
しかし、今回説明したようなデメリットを感じるようになり、思い切って聞き流しは行わないという決断をしました。
そのことにより英語力向上の効果が下がったとは感じませんし、むしろ他の学習に集中して取り組めるようになったので、やめて正解だと思っています。
しかし、単純作業を行なっている時など、ある程度リスニングに集中できる状況でのながら聴きは継続して行っています。
気軽にできる聞き流しですが、反面デメリットもあることを知った上で、行うかどうかを判断しましょう。