今回は、Atomic Habits実践編第四弾ということで、習慣を制する第四の法則:Make it satisfying(楽しみにする)について解説していきます。
- 第一の法則(Cue):Make it obvious(明確にする)
- 第二の法則(Craving):Make it attractive(魅力的にする)
- 第三の法則(Response):Make it easy(簡略化する)
- 第四の法則(Reward):Make it satisfying(楽しみにする)
第一の法則では、Cueを明確に意識し、意思の力を使わずに環境を整えることで、望む習慣と望まない習慣をコントロールしましょうという話をしました。
第二の法則では、より情緒的なアプローチでCravingに直接働きかけ、その習慣を行うこと自体を魅力的にする方法を説明しました。
第三の法則では、実際の行動(Response)をより少ない労力と意志力で実行するテクニックについて、具体的な方法論を用いて提案しました。
これまでの3つの法則では、さまざまな方法で、習慣に対する抵抗をなくし、いかに目の前の習慣を行う確率を上げるかというものでした。
第四の法則では、その習慣自体を楽しみ(Reward)にして、いかに次回も行う確率を上げるかというところに主眼を置いています。
それでは解説していきます。
- 即時報酬と遅延報酬
- 現代社会を生きる我々の選択は遅延報酬に基づいて決定されている
- 人間の脳は遅延報酬に適応するように進化していない
- 習慣を記録する(Habit tracking)
- 継続が可視化されていると続けずにはいられなくなる(Cue)
- 進行状況を認識することによってモチベーションを維持できる(Craving)
- 記録を眺めること自体が喜びになる(Reward)
- アカウンタビリティパートナー
- 悪習慣を行うハードルを上げる・ペナルティを与える
- 対象との距離が近いほど効果がある
即時報酬と遅延報酬
即時報酬とは、何かを実行した瞬間に得られる報酬です。
例えば、あなたがサバンナで生活していると想像してください。
おそらく日中常に考えるであろうことは、その日の食料や寝床、あるいはどのようにしてライオンや虎などの捕食者を避けて移動するか、というような今目の前で起こりうることに対しての選択がほとんどかと思います。
このように行なった行動に対して瞬時に得られる結果を即時報酬と言います。
遅延報酬とは、その行動を実行してある程度時間が経ってから現れる報酬です。
現代社会で生きる我々の選択のほとんどは遅延報酬に基づいて決定されています。
例えば、
- 会社でどんなにいい仕事をしても、昇給やボーナスが得られるのは数ヶ月
- 筋トレを始めても効果が出るのは数ヶ月後
- 老後のために貯金を始めても、十分な金額を得るのは数十年後
など、今日選択した行動はすぐに恩恵を与えてくれません。しかし、我々の脳はこの遅延報酬型の環境に適応するように進化していません。
我々の祖先であるホモ・サピエンスが誕生してからおよそ20万年、現代人の脳のサイズはほとんど変わっていません。
それまで長らく続いた即時報酬型の環境から遅延報酬型の環境に変わったのは、ほんの500年前くらいのことです。
人類にとってこの変化はごく最近のことであり、当然のことながら脳はこの変化に順応できていないので、
- 喫煙を続けると後々健康に悪影響を及ぼすことがわかっているにも関わらず、脳がニコチンを今欲しているためついタバコを吸ってしまう
- 過食は肥満の原因と分かっていても、今起こっている空腹を満たすためについ食べ過ぎてしまう
ということが起こってしまいます。
逆に、筋トレやダイエットなどの良い習慣とされているものの多くは、退屈だったり苦痛を伴ったりして、その行動自体を純粋に楽しむということが難しいです。
なので、良い習慣を継続するにはその行動を行うことに楽しみや達成感を見出す工夫をする必要があります。
やったつもり貯金
我々が悪習慣をなかなか辞められない理由の一つに、その行動をしなかったことに対する報酬がない、ということが挙げられます。
例えば、その一本のタバコを今吸わなかったとしても何も起こりません。
一ヶ月禁酒に成功しても、多少の体調の変化はあれど、基本的に劇的なことは何も起こりません。
ドーパミンによって制御されている我々の脳とって、報酬がないということは、価値がないということと同義です。
気合いと根性だけではこの即時報酬の力に屈することになります。
そこで有効な手段のひとつとして、やったつもり貯金というものがあります。
その名の通り、何かをやったつもりでその代金と同額のお金を貯金していくというシンプルな方法です。
まず、貯まったお金で何が買いたいかを決めます。
例えば、レザージャケットが欲しいという場合は、「レザージャケット」と書いたラベルを瓶に貼り、その中にお金を入れていきます。
そして、
- 毎朝飲んでいたスターバックスラテを買わなかったら500円貯金
- Netflixのサブスクを一ヶ月キャンセルしたら1,500円貯金
というように、擬似的な即時報酬を作り出すことによって、したいことをできなかったという欠乏感よりも、欲しいもののために一歩前進したという幸福感を感じることができ、「何かをしない」ということに対しての満足感を得られます。
じゃあ、げん丸くんにおやつあげたつもり貯金でもしょうかな
ブヒーー!そんな殺生な。。
ただし、この方法はあくまでも習慣を変える初期段階で短期間で行うテクニックです。
最終的にはその習慣によって形成されたアイデンティティ自体が習慣を強化していくので、このテクニックに頼らずとも習慣を継続することが容易になります。
習慣を記録する(Habit tracking)
毎日の習慣の成果を記録するというのも有効です。
記録を取るからにはちゃんとやろうという心理が働きますし、積み重なっていく記録を眺めること自体が満足につながります。
例えば、
- 筋トレの重量と回数
- 食事内容
- 読書したページ番号
- 禁煙日数
などを、ノートやアプリに記録していきます。
しかし、これらのように内容や結果を記録するよりも、さらに強力な方法があります。
それは、単純にその習慣を行ったらカレンダーに×印を書き入れていくという方法です。
例えば、瞑想を毎日すると決めた場合、月曜日、火曜日、水曜日…と、この×印の連鎖が続けば続くほど、この連続記録を止めたくないという心理が働きます。
DuolingoやELSA Speakといった英語学習アプリではお馴染みのストリーク(Streak)といえばピンとくる人もいるのではないでしょうか。
次に、習慣記録のメリットと注意点について詳しく解説していきます。
習慣記録のメリット
メリット1:行動のトリガーになる(Cue)
カレンダーに×印が並んでいくのを視覚的に認識することによって、常にその習慣への意識を高く保つことができ、次回の行動のトリガーになります。
そして継続(ストリーク)が可視化されていると続けずにはいられなくなります。
また、人間は主観で物事を捉えた時、自分の都合のいいように記憶を捏造するという性質があるので、記録という動かない証拠があることによって、継続状況を客観的に捉え、常に自分に正直で公正な判定を下すことができます。
メリット2:モチベーションを維持できる(Craving)
習慣記録によって進行状況を認識することが、モチベーションの維持につながります。
人は一度継続し始めたものを中断したくないという性質も持っています。
空欄を埋めないことによって、今までの努力が水の泡になるのではないかという恐怖が芽生えます。
なので、毎朝その日の空欄を見ることによって、その空欄を埋めたいという欲求が生まれます。
そのようにして、小さな勝利を日々重ねていくことが、さらなるモチベーションにつながっていきます。
メリット3:記録を眺めること自体が喜びになる(Reward)
このようにカレンダーに×印をつけたり、To-Doリストにチェックを入れたり、ワークアウトの記録を入力したりするといった行為自体が快感(報酬)となります。
これが習慣記録の一番のメリットです。
習慣記録とはすなわち、自身の成長の記録であり、自分に投資した時間とエネルギーの記録でもあります。
それらが徐々に積み重なっていくのを視覚的に眺めることによって、大きな満足感を感じ、さらなる成長へと加速していきます。
そして、その満足感が自己肯定感につながり、やがてアイデンティティが変化していきます。
結果よりもプロセスにフォーカスできるので、内容によってネガティブになったりやる気が失せたりするリスクも軽減できます。
つまり、習慣記録とはあなたが理想のセルフイメージに一歩一歩近づいているという証ということに他なりません。
習慣記録を行う際の注意点
記録すること自体が負担になってしまう
習慣記録が習慣化に優れた効果を発揮するということが分かりましたが、それでも行うのを躊躇する人が少なくありません。
なぜかというと、習慣記録自体が一つの新しい習慣であるため、一度に2つの習慣を始めるということになり、それが結構な負担に感じてしまうからです。
また、すでに取り組んでいることを改めて記録するということに意味を見出せない可能性もあります。
例えば、
- すでに食事制限に取り組んでいて食べるものは決まっているのに、さらにそれを毎回記録するのは苦痛でしかない
- すでにその他のやるべき仕事があるのに、営業電話の内容を逐一記録するというのは退屈でしかない
というように、人によってはデメリットの方が上回る可能性があります。
習慣記録は必ずしも全員におすすめする方法でありませんし、やったとしても一生続ける必要はありません。
しかし、ある一定期間においては非常に有効な手段であることは間違いないので、習慣の導入期間に少し行うだけでもも効果があります。
では、どうすれば習慣記録の負担を軽減することができるのでしょうか?
まずは、習慣記録をなるべく自動化するということです。
幸い今では、さまざまなアプリやスマートウォッチなど、自動で記録を取ってくれるツールが充実しています。
そこから必要なデータを抽出してカレンダーに転記するだけであれば、一からマニュアルでデータを記録するよりかは実現度が上がります。
次に、記録する習慣は一つに絞るということです。
全ての習慣を記録するのではなく、あなたが今一番重要だと思っている習慣を一つだけ選んで記録するようにしましょう。
最後に、そのアクティビティを終えたらすぐに記録するということです。
このアクティビティの完了が習慣記録のCueになります。
これは第一の法則で紹介したHabit stackingとHabit trackingを組み合わせて応用したものです。
私は[現在取り組んでいる習慣]のあとに[習慣記録]を行います
例えばこのような感じです。
- 私は[各トレーニングメニューの全セットを終えた]あとに[重量と回数の記録]を行います
- 私は[食事を終えて食器をシンクに運んだ]あとに[食事内容の記録]を行います
これらの方法を駆使すれば、たとえあなたが習慣記録をあまり楽しいと思えなくても、そこまで苦にならずに記録を継続することができるでしょう。
習慣記録を何週間か続ければ、あなたが実際どのように時間と労力を自分へ投資してきたかという統計が観測できるようになり、記録を眺めただけでニヤニヤしてしまうほどハマっていくことでしょう。
しかし、どんなに順調にストリークを伸ばし続けたとしても、いつかは必ず途切れる時が来ます。
実は、習慣をいかに継続するかということよりも、一度途切れた習慣をいかにして軌道に戻すかということの方が大事です。
次の項で詳しく解説します。
2回連続で休まない
あなたがどんなに強い意志を持ってその習慣に対して取り組んでいたとしても、人として生活を送っている以上、不意の出来事というはどうしても避けられません。
例えば、体調を崩したり、仕事で地方に出張に行かなければならなくなったり、家族のための時間で自分の可処分時間が減ってしまったりということは誰にでも起こり得ます。
世の中完璧というのはあり得ないので、予定通りに物事が進まないということを前提に習慣に取り組む必要があります。
また、身体が疲れ切っていたり、精神的に落ちていたりして、どうしてもやる気が起きないという日もあるでしょう。
真面目な人ほど、そのことで自分を責めたり、失望してしまったりしてしまうかもしれません。
そこで、ひとつシンプルなルールを自分に課します。
たとえ1回休んだとしても、2回連続で休まないということです。
ストリークが途絶えてしまった時に、このルールを思い出しましょう。完全に心を折られることなく、再び習慣を継続することができます。
実際、1回休むのはそこまで影響はありません。
しかし、2回連続で休むのは負のスパイラルの始まりです。
要するに、1回のミスは単なるアクシデントですが、2回目のミスは新しい習慣の始まりということです。
習慣を継続する上で最も重要なのは、完璧にこなすことではなく、いかに調子の悪い時でも実行できるかということです。
そのためには、ゼロにしないということが鍵となります。
モチベーションやコンディションが下がっている時、良い結果が出ないということに対しては気にする必要はありません。
それよりも、気分が乗らなかったがそれでもタスクをこなしたということが重要です。
この、「それでもやる」ということがあなたのセルフイメージを強化します。
完璧にできないのであれば何もやらない方がいいという0/100の考え方は危険です。
例えばジムであれば、たとえ疲れていてやる気がない時でも、とりあえずジムに行くということが大事です。
この時点でほぼその日のタスクは達成しているので、あとはトレッドミルを15分やって帰ってもいいのです。
もちろん、トレーニングのパフォーマンスは上がりません。しかし、あなたのアイデンティティは確実に強化されています。
習慣記録の本来の役割は習慣を持続させることではなく、習慣から離脱するのを防ぐことです。
数字に固執しない
習慣記録のもう一つのデメリットは、数字を目標にしてしまうということです。
基本的に数値で表せるものを記録していくので、どうしても数字にフォーカスしてしまい、とにかく数字だけを伸ばそうとして、本来の目的を見失いがちです。
例えば、
- 読書したページ数を伸ばすことだけを目標としてしまい、内容を咀嚼して読んでいない
- ダイエットで体重を落とすことだけを目標としてしまい、健康的な見た目やライフスタイルを疎かにしている
というように、なぜその習慣をしようと思ったのかという当初の目的から外れ、ただ単に数字のみを追い求めるモードに入っていしまいます。
現代人は数値やデータで動いている世界に住んでいるので、数値というものを過大評価し、儚さや優しさといった数や量では表せないものを軽視してしまう傾向があります。
しかし、数や量で測れないからといって、それらのものは全く重要ではないということではありません。
むしろ、そのようなものの中にこそ、物事の本質や本来の目的が隠れているといったことがあります。
例えばダイエットであれば、体重を計らず見た目だけで判断して行う方が効果的ということがあります。
数字は頑固で一切の容赦がないので、少し体重が増えただけでも、あなたはがっかりしてやる気を失ってしまうかもしれません。
しかし数値は一旦忘れて、そのほかのことに注目してみると、実は健康的な食事に変えたおかげで肌が綺麗になっていたり、早起きが習慣になっていたり、以前より活力に満ち溢れている、ということに気づきます。
もし、体重という数字を記録することに疲れたならば、数値では表せないあなたの気分や健康状態などを記録していくのも悪くありません。
アカウンタビリティパートナー
これまで、習慣を行なった直後に得られる即時報酬によって、習慣を継続することができると説明しましたが、実は習慣を行わなかったことによって与えられる苦痛を避けようとすることによっても習慣を継続することができます。
この痛みというのは、喜びよりも効果的な場合があります。
成功で得られる報酬よりも、失敗によって与えられる罰則の方が強力です。
失敗することによる罰則が重ければ重いほど必死にそれを避けようとしますし、何も痛みを伴わないものであれば無視されるだけです。
そして、罰則を与えられるタイミングが早ければ早いほど効果があります。
駐車違反やスピード違反の罰則があるから、ほとんどの人は法定を守ろうとするんブヒな
うん、残念ながら罰則がなければ、ほとんどの人が守らないというのも事実だからね
この習性を利用するために、失敗したら自らに罰則を課さなければいけない環境を意図的に作りるのですが、自分だけの取り決めだと無かったことにしてしまうので、第三者に宣言して避けられない状況にします。
この自分がやると決めたルールを宣言する相手のことをアカウンタビリティパートナー(Accountability partner)といいます。
アカウンタビリティパートナーに自分が定めた習慣の目標とそれが守られなかった時のペナルティを伝えます。
こうすることによって、自分との約束でしかなかったものが他人との約束に変わります。
すなわち、このルールを守らないということは、その誰かとの約束を破るということになります。
我々の脳は他人からの信頼を失うということに恐怖を感じるようにできているので、どんなにやる気がなくても自分の印象が悪くなる不快感よりはマシだと感じ、いやいやでもその行動を実行するようになります。
なので、このアカウンタビリティパートナーは、恋人や友人など自分との距離が近い人の方が効果があります。
また、そのような近しい人がいないという人は、SNS上で宣言するのも悪くありません。
リアルよりもバーチャルの世界での方が臨場感を感じることができる人はそちらの方が効果があるでしょう。
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あなたの目的やレベルに合わせて最適なカリキュラムをデザイン
習慣自体をご褒美にする
4章にわたって解説してきたAtomic Habits【実践編】ですが、本記事でついに完結です。
全編を通して、いかに意思の力を使わず習慣を継続させるかというテクニックやメソッドを説明してきました。
しかし、習慣が大事な理由は、ただ単にいい結果をもたらすためだけではありません。
習慣と真剣に向きあい継続することによって、あなた自身のセルフイメージを変えることができるということです。
良い習慣を築き上げるということの本当の意義は、その習慣を続けることが目的なのではなく、なりたい自分になるためにするということです。
あなたが見ているこの世界はすべてあなたのアイデンティティを通して投影されています。
もしあなたが現状を変えたいと思っていても、あなたの外側の世界を変えることはできません。
あなたの内側(アイデンティティ・セルフイメージ)を変えれば、外側(見える世界)が変わるので、経験することが変わります。
この辺の話は潜在意識や量子力学が絡んできて話が長くなってしまうので、また別の機会にシェアできればと思います。