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「Fixed Time」とは?魂の記憶と運命の流れ|映画『アダム&アダム』考察

今回紹介する映画はこちら、

The Adam Project
アダム&アダム

本作は、タイムトラベルを扱ったSF映画です。

ストーリー的には至ってシンプルで、

  • 過去の傷や悲しみの癒し
  • 家族愛
  • 決別と再会

といった、人間愛がメインテーマのヒューマンドラマという印象が強いですが、タイムトラベルを用いた時間軸の概念やタイムパラドックスに関しても、割としっかり描かれています。

中でも、「Fixed Time(固定された時間)」という概念は非常に興味深く、タイムパラドックスに対する一つの答えだと感じました。

そこで今回は、特に次のテーマに絞って本作の考察をしていきたいと思います。

それでは、始めていきましょう。

Contents

『アダム&アダム』作品紹介

作品情報

The Adam Project
アダム&アダム

英語の難易度:

概要

まず、本作に登場する年代は3つあります。

  • 2050年:未来のアダムがいた時間軸
  • 2022年:12歳のアダムがいる時間軸
  • 2018年:タイムマシーンが生まれる直前の時間軸

未来のアダムがいる2050年は、タイムトラベルが可能になっている時代です。

主人公のアダムと妻のローラは共に軍が遂行する「タイムジャンプミッション」のメンバーでしたが、彼女はそのミッション中に亡くなったと報告されます。

納得のいかないアダムは軍の飛行機を盗んで、彼女の生存を確認すべく、彼女の行方が最後に確認された2018年へのタイムトラベルを試みます。

しかし、軍と飛行機で交戦中にお腹に重傷を負ってしまったため、タイムトラベル機能が正常に作動せず、予期せぬ形で2022年に降り立ってしまいます。

そして、そこで12歳の頃の自分と遭遇します。

もうここまで来れば安全かと思われた矢先、2050年から追っ手がやってきてしまい、万事休すかと思われた瞬間、なんとローラが助太刀に現れます。

命からがら逃げ延びたアダムたちですが、さらなる追っ手に行く手を阻まれます。

為す術が無くなったアダムたちはついに、2018年に戻って、タイムトラベル装置の原型となるシステムを破壊し、この世にタイムマシーンが作られること自体を阻止することを決意します。

そして、2018年にたどり着いたアダムたちは、そのタイムトラベル装置の開発者である自分たちの父親に会いにいきます。

なお、この父親のルイスは2020年に交通事故で亡くなっており、子供のアダムにとっては2年ぶり、大人のアダムにとっては約30年ぶりの再会となります。

しかし、2018年にも追っ手が現れます。果たしてアダムたちは未来を変えることができるのか?

といったストーリーです。

他にも重要な要素がありますが、ここで全てを語ってしまうと、本題に入れなくなってしまうので、この辺にしておきます。

これより先はネタバレ要素が含まれます。

固定された時間「Fixed Time」とは

本作のストーリー上でも重要な役割を担っている「Fixed Time」という概念ですが、直訳すると「固定された時間」ということになります。

この概念は、本作の序盤で、大人のアダムと子供のアダムでのやり取りの中で説明されています。

© Netflix / MovieStillsDB
Young Adam

Wait. Do you remember this?

Adult Adam

Remember what?

Young Adam

This. Right here, right now.
You being here in 2022?
Know where you’re going with this, if this is happening to me…

Adult Adam

You’re wasting your time.

Young Adam

That means it already happened to you.
Unless it works like a multiverse, where each ripple creates an alternate timeline…

Adult Adam

It’s not a multiverse!
My God, we watched too many movies…

Young Adam

I just wanna know.

Adult Adam

Okay, the prevailing wisdom is that when I go back to my fixed time, my memory… our memories, they reform, they reconcile.
But not while I’m here.

Young Adam

Fixed time? What’s that?

Adult Adam

There’s only one place in time where you belong on a quantum level, where you’re not screwing around with the cosmos like I am.
That is your fixed time. Where you actually belong.

要するに、この宇宙には無限のパターンの現実が存在し、それぞれのタイムライン(Fixed Time)が別の量子レベルの領域で存在しているということです。

そして、過去の自分と遭遇した場合、現在のタイムラインに存在する間は、自分の記憶は書き換わりませんが、自分が属するタイムラインに戻った後に、辻褄が合うように記憶が調整されるということです。

つまり、この二人のアダムは、量子レベルで見ると完全な同一人物ではなく、それぞれが違う経験をしているということになります。

これは、「人の記憶は脳に保存されているのではなく、バリアント空間に保管してある記憶のアドレスを記憶しているだけ」というトランサーフィンの考え方にも通ずる部分があります。

えいじ

大人のアダムが「My God, “we” watched too many movies…」と言ってるところにクスッときたね

二人のアダムが最後に消えた理由

© Netflix / MovieStillsDB

ストーリー終盤、なんとかタイムトラベル装置を破壊し、平和が訪れた二人のアダムと父親は、3人で一緒にキャッチボールをして、束の間の親子の時間を過ごします。

子供のアダムが投げたボールが大きく外れて、父親がボールを取りにっている間に、二人のアダムは姿を消していました。

しかし、ここで一つの疑問が浮かびます。

それぞれのタイムラインに「Fixed Time」が存在するのに、違うタイムラインのイベントが影響するのか?

もし、「Fixed Time」という概念が存在するなら、別のタイムラインでタイムトラベル装置を破壊しても、二人のアダムの存在には影響せず、それぞれのタイムラインでは、タイムトラベル装置が存在する現実が展開されているはずです。

これは、ドラゴンボールで、未来からやってきたトランクスが別のタイムラインの人造人間を倒しても、元の現実は変わっていないように、それぞれのタイムライン同士は干渉し合わないという世界観です。

しかし、本作では、「Fixed Time」という概念は採用しつつ、別のタイムラインのイベントが相互干渉している世界観を描いています。

先ほどの会話をもう一度よく見てみると、

Adult Adam

Okay, the prevailing wisdom is that when I go back to my fixed time, my memory… our memories, they reform, they reconcile.
But not while I’m here.

と、あえて「our memories」と言いなおしているので、お互いのタイムラインで記憶の共有が行われることを示唆しています。

そして「reconcile(調整する・調和させる)」とあるので、お互いの記憶がブレンドされて、辻褄が合う形で再定義されるということだと思います。

ラストシーンから見る「魂の記憶と運命の流れ」

エンディングでは、

  • 子供のアダムが母親にハグをする
  • 大人のアダムが再びローラと出会う

という2つのシーンがあり、二人のアダムのその後が描かれています。

2018年にタイムトラベル装置が破壊されたことによって、二人の記憶からはタイムトラベルのことは無くなっているはずですが、あたかもその時の記憶がどこかに残っているかのような表現がなされています。

では、なぜ二人のアダムはタイムトラベルが存在する現実に影響されているのでしょうか?

ここには、私たちの魂の記憶運命の流れといった、宇宙の真理に触れるような、本質的なテーマが隠れています。

その前に、まずは、二人のアダムのエンディングを理解する上で重要なシーンを解説します。

2022年のローラとアダムが交わした会話のシーンが本作のメインテーマ

2022年のタイムラインで再会したローラがアダムに2018年に戻るよう説得するシーンがありますが、ここでの会話がまさにこの映画のメインテーマともいうべき重要なシーンなので、少し振り返ってみましょう。

© Netflix / MovieStillsDB
Laura

Now you have to go back to 2018, and you have to put things right.
You have to put an end to all this.

Young Adam

What do you mean “put an end to it”?

Laura

I mean, stop time travel.
From ever being invented and save the future.

Adult Adam

Fine, come with me, and we’ll…

Laura

Your jet is meshed for your DNA. It won’t fly with anyone else.

Adult Adam

You’re smart. You can figure it out.

Laura

Adam!

Adult Adam

We meet in the program. We meet there. Do you understand that?
We can’t…
If I go back and stop time travel, and that’s an extremely big “if” with Sorian on my ass, we never meet.
We never happen.
We never happen, Laura.

Laura

We did happen.
Every moment we ever had will always have happened.
Even if we correct the time stream, somewhere in us will be the echo of this one.
And we will find each other.
I really believe that.

状況をまとめると、

  1. この状況を打破するには、2018年に戻ってタイムトラベル装置を破壊するしかない
  2. このタイムジェットは登録されたDNA本人以外の人が乗っていると作動しないため、ローラを連れて行くことはできない
  3. ローラとアダムは、タイムトラベルプロジェクト(Sorian)で出会ったため、タイムトラベルが存在しない世界線では出会うことができないとアダムは危惧している

となりますが、ローラは、「時間の流れを変えたとしても、二人の間に起こった出来事は私たちの中のどこかに残っている」と主張します。

echo(エコー)」と表現しているので、はっきりとは思い出せなくても、心の奥底から小さく聞こえてくるような、しかし、確かにそこに存在しているというニュアンスだと思います。

つまり、

魂の記憶は過去や未来をも超越し、時空を超えて蘇る

ということです。

エンディング①:子供のアダムが母親にハグをするシーン

まず、このシーンから分かることは、「この現実のパターンでも父親(ルイス)が同じタイミングで亡くなっている」ということです。

タイムトラベル装置が破壊されない世界線では、彼は2020年に交通事故で亡くなりますが、タイムトラベル装置が破壊された後の世界線でも、彼は同じタイミングで命を落としています。

「交通事故で命を落とす」というイベントが起こる確率は非常に低いにもかかわらず、世界線が変わった後も同じタイミングで命を落とすのは、「生まれてくる前に魂が自分の死に時を計画してきている」ということを示唆しています。

  • 後者の死因については具体的に言及されていない

二人のアダムは、最後にルイスに事故のことを忠告して、助けようとします。

しかし、ルイスは自分が二人の時代にはすでにこの世にいないことを最初から悟っており、その忠告を断ります。

彼は量子力学の第一人者としての誇りと責任があり、未来を変えることの危険性を知っているからです。

また、三人でのキャッチボールをした時に、大人のアダムは子供のアダムに「もしも、自分のタイムラインに戻った後もこのことを覚えているならば、自分の代わりにママにハグをしてくれないか」とお願いします。

そして、「しかも、ただの軽いハグじゃなくて、あばらが折れるくらいの熱いハグだぞ」と付け加えます。

Adult Adam

All right. Can you do me a favor?
I don’t know if we’re gonna remember any of this, but maybe there’ll be an echo or somethin’, like Laura said.
But just in case, give Mom a hug for me.
Would you do that?
Not one of your lame-ass side hugs either.
I’m talkin’ the break-a-rib kinda hug. Yeah?

タイムトラベルが存在しなくなったということは、大人のアダムとの出会いも経験していないことになりますが、子供のアダムは、それを心のどこかで覚えていて、母親と熱い抱擁を交わします。

© Netflix / MovieStillsDB

このことから分かるのは、タイムトラベルがあった世界線は完全に消滅したのではなく、宇宙のどこかに可能性の現実として漂っていて、魂の記憶はその領域にアクセスできるということです。

タフティ的にいうと、上映されていない現実のパターンを保管庫の中から参照している状態です。

おそらくこれがデジャヴの正体で、

  • 初めて訪れる場所なのに、妙な懐かしさを感じる
  • 初対面なのに、初めて会うという感じがしない

と感じることがあるのは、魂が時空や世界線を超えて記憶を共有しているということだと思います。

エンディング②:大人のアダムが再びローラと出会うシーン

そして、大人のアダムが再びローラと出会うシーンでわかることは、「二人の魂は生まれる前から出会う約束をしてこの世界に転生してきている」ということです。

タイムトラベルが存在していた世界線では、二人はタイムトラベルプロジェクトで出会っているので、タイムトラベルが存在していない世界線では、出会う確率は限りなく0に近くなります。

しかし、お互い示し合わせたかのように、宇宙は二人を出会わせる舞台を用意します。

この世界線では、二人は同じ大学の講義で出会います。

ローラはたまたま受ける講義を間違え、しかも違うキャンパスの講義に参加してしまいます。

さらに、偶然アダムの隣の席が空いていて、偶然そこに座るというミラクルです。

つまり、二人が出会うタイミングはここしかなかったのです。

ここでの二人の会話が、絶妙にその魂の記憶の揺らぎを表現していたので、振り返ってみましょう。

Laura

Then I’m in the wrong building.

Adam

Actually, you’re in the wrong campus.

Laura

Then I’m lost.

Adam

Not anymore. I found you.

アダムが何気なく発した「I found you」という言葉に、ローラの中の何かが反応したのがわかります。

そして、アダムもすでにローラの中に何か特別なものを感じています。

この瞬間の二人の表情の演技は絶妙です。

瞳の奥に魂の記憶が宿っているというのが伝わってきます。

© Netflix / MovieStillsDB
Adam

I can… I can walk you to Schaefer.

Laura

Are you sure? I mean, I would hate to disturb your sleep.

Adam

I’ve, uh…
I’ve got time.

そして、「I’ve got time」と締めているところが、なんともオシャレです。これまで時間に翻弄されてきた二人の経緯を知っている側からすれば、とても感慨深いセリフに感じられます。

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おわりに

正直なところ、本作のアクションシーンやCGに関しては、気持ちがあまり入らない部分もありましたが、「Fixed Time」をはじめ、時間の概念や量子的な観念が丁寧に描かれていて、とても見応えがありました。

また、英語教材としても、そこまで難しい単語や表現は出てこないので、使いやすいかと思います。

量子力学やタイムトラベルの専門用語が出てきますが、その辺のディテールは無視してもストーリーの進行上はあまり問題にはならないかと思います。

今回注目した「Fixed Time」は、タイムパラドックスに対する一つの答えではないかと感じました。

そして、この現実は我々が想像している以上に多次元的に存在していることも示唆しています。

もちろん、映画なのでファンタジーの域を超えませんが、どこか、

えいじ

本当にそうなのではないか…

と思わされる作品でした。

一度観ただけでは、気づかないような深いテーマも隠れているので、すでに観たという人も、この記事を読んでからもう一回観てみると、受ける印象が変わってくるかもしれませんね。

それではまた、次の記事でお会いしましょう。

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