ディープワークの意義を3つの視点から紐解く｜『Deep Work』徹底解説【7】

なぜ今の時代に「深さ」が重要なのか？

の記事では、ディープワークは現代の価値観と逆行しているように見えるが故に、その希少価値が高まっているというお話をしました。

では、そもそもなぜ現代社会が求める「速さ」「広さ」「新しさ」ではなく、「深さ」が重要なのでしょうか？

この問いに対する答えを、

の3つの視点から紐解いていきたいと思います。

それでは、始めていきましょう。

なぜディープワークは重要なのか？

この大量生産の時代に、前時代的な職人気質が要求されるディープワークの重要度が増しています。

今回は、その事実を裏付ける3つの観点から、「深さの」重要性について詳しく解説していきます。

「深さ」の重要性を証明する3つの視点

• 脳科学的な深さ
• 心理学的な深さ
• 哲学的な深さ

脳科学的な深さとは
A Neurological Argument for Depth

意識を向けているもので人生が決まる

まず、大前提として押さえておきたいのは、あなたの意識があなたの人生のクオリティを決めているということです。

あなたの意識とはつまり、

• あなたが集中すると決めたこと
• あなたが無視すると決めたこと

の2つの要素を掛け合わせたものです。

私たちの脳は、意識を向けているものをもとに現実世界のスクリーンを投影しています。

なので、あなたがもしネガティブな出来事にフォーカスしていれば、あなたの人生は暗く不幸に感じますが、もしあなたが大好きなことだけに集中していれば、人生はより明るく楽しいものとなります。

脳科学的に証明された事実

この事実は脳科学的にも証明されており、ネガティブ思考の人とポジティブ思考の人では、感情を司る扁桃体の反応が違います。

そして、ポジティブ・ネガティブ思考の傾向と幸福度にも有意な関連性が見られました。

元々、人間の脳は原始時代の名残で、ネガティブなものに意識が向くようにできています。

そのため、ポジティブ体質になるためには、意図的に意識の向け先を変える訓練をする必要があります。

ネガティブ偏重の現代メディアの影響

現代のメディアではこの人間の本能を利用して注目を集めようと、ネガティブなニュースや出来事を中心に報道したり、SNSで投稿したりします。

また、ビジネスの世界においても、ひっきりなしに来るメールの件名に、

• 「至急」
• 「緊急」
• 「必読」

といった文言が乱用され、不安や焦燥感を煽る小さな心配事の嵐が、ボディーブローのように我々の神経を削っていきます。

このように、現代ではネガティブの沼から抜け出すことが非常に困難で、人々のネガティブ脳はどんどん肥大化していきます。

ディープワークでネガティブ思考を遮断する

そこで重要になるのが、ディープワークの役割です。

Deep Workによって、本当に大事なことに深く集中することで、その他の心配事や不安を考える隙間をなくすことができます。

逆に、一日のほとんどをShallow Workで過ごしてしまうと、うまくいかなかったことにフォーカスするようになってしまい、モヤモヤとした一日を過ごすことになります。

このように、脳科学的な観点から見ても「深い集中」の重要性が見て取れます。

In work (and especially knowledge work), to increase the time you spend in a state of depth is to leverage the complex machinery of the human brain in a way that for several different neurological reasons maximizes the meaning and satisfaction you’ll associate with your working life.

Deep Work, P82

心理学的な深さとは
A Psychological Argument for Depth

と聞かれると、多くの人は「リラックスしている時の状態」とイメージするかと思いますが、これは大きな誤解です。

人間にとって最高の心理状態は、「できるかできないかギリギリの難易度のやりがいのあることに対して、己の心と体のポテンシャルをフルに使っている時」に訪れます。

いわゆる「フロー状態」です。

皮肉にも、実は仕事というのは、自由時間よりも満喫するのが簡単です。

なぜなら、仕事には、

• ゴール設定
• フィードバック環境
• チャレンジ

といった、フロー状態に入るために欠かせない要素がセットになっているからです。

一方、自由時間にはこのようなフロー構造がなく、余暇をフルで満喫するためにはある程度の努力が必要となります。

ディープワークはフロー状態を作り出すのに最適なアクティビティです。

そして、人はフロー状態に入ると幸福感を感じます。

このことから、心理学的な観点からも、ディープワークの重要性が窺えます。

哲学的な深さとは
A Philosophical Argument for Depth

今度は、さらに根源的な哲学の観点から見ていきます。

人間の根源的な欲求—「神聖さ」と「生きる意味」

私たちの人生を突き動かしているのは何か？

という問いを、魂レベルから見た時に行き着くのが、「神聖さ（sacredness）」という概念、及びそこから見出す「生きる意味」です。

人類が築いた文明の進化や、精神性の成長はすべて、この「神聖さ」と「意味」を追い求めた結果と言えます。

では、「仕事」において、我々は何に神聖さと意味を見出してきたのでしょうか？

それは、プロフェッショナリズムの中で育んだクラフトマンシップです。

現代社会で失われたクラフトマンシップ

現代の物質社会では、仕事の意味を「結果」や「数字」といった外側の世界に求めるようになっていきました。

しかし、神聖さや意味は外側ではなく、常に自分の内側に存在します。

ゆえに、仕事を通して深く自分と向き合うことでしか、本当の喜びや生きがいを感じることはできません。

意味は作り出すのではなく見出すもの

仕事の本質を捉えた一文が、本書で引用されているので紹介します。

The task of a craftsman, they concluded, “is not to generate meaning, but rather to cultivate in himself the skill of discerning the meanings that are already there.”

Deep Work, P88

要約すると、

職人の仕事とは、そこから意味を作り出すのではなく、すでにそこにある意味を見出す技術を育むことである。

という感じです。

現代にも生きる職人魂

この精神は、昔ながらの技術職だけではなく、プログラマーのような現代的な職業にも通じます。

美しいコードは短くて簡潔です。それはまるでポエムのような美しさがあります。

つまり、「神は細部に宿る」ということです。

これは、エンジニア職に限らず、

• ライター
• マーケッター
• コンサルタント
• 弁護士

といった知的職業の中にもクラフトマンシップを見出すことができます。

したがって、ディープワークで己の技術を磨くことで生きる意味を見出し、ひいては人間の根源的な喜びの創造に繋がると言えます。

まとめ

ディープワークの重要性【まとめ】

この3つの観点に共通することは、いかにディープワークで没頭状態を作れるかということだと思います。

それはつまり、「今ここ」に集中すると幸福になれるということにつながります。

これは、現代社会で重要視されている「新しさ」「広さ」「速さ」では決して得ることはできず、自分と静かに向き合う時間を持ち続けた「深さ」を知る者だけが到達できる感覚です。

次回は、「ディープワーク実践のルール」について、詳しく解説したいと思います。

それではまた、次回の記事でお会いしましょう。