ディープワークの希少価値が上がっている理由|『Deep Work』徹底解説【6】

の記事では、これからの時代に通用するスキルを身につけるためにはディープワークが必須というお話をしました。

しかし現代では、ディープワークを行うこと自体がレアになってきています。

その理由は主に3つあります。

Deep Workが貴重になっている3つの要因

  • スタッフ同士のコミュニケーションを重視したオープンなオフィス環境
  • リアルタイムでのレスポンスが期待されるコミュニケーション
  • 24時間常に繋がっているSNSのアクティビティ

そこで、今回は、

というテーマについて、詳しく解説していきたいと思います。

それでは、始めていきましょう。

今回紹介する本はこちら

最高の集中を手に入れたい人へ

『Deep Work』表紙

Deep Work
Rules for Focused Success in a Distracted World

英語の難易度:

書籍タイプ商品ページ
ペーパーバックAmazonで見る
Kindle版Amazonで見る
Audible版Amazonで見る

ページ数:304ページ

著者:Cal Newport

発売日:2016年1月5日

日本語訳版はこちら

『大事なことに集中する』表紙

大事なことに集中する
気が散るものだらけの世界で生産性を最大化する科学的方法

書籍タイプ商品ページ
単行本Amazonで見る

ページ数:240ページ

著者:カル・ニューポート

翻訳:門田 美鈴

発売日:2016年12月9日

本記事の内容は、本書を読んで私自身が解釈・要約したものであり、著者の意図や原文を忠実に再現したものではありません。また、理解を深めやすくするため、一部の実例などに変更・補足を加えている場合があります。

Contents

ディープワークは希少価値が高い

では、なぜDeep Workの希少価値が高まっているのでしょうか?

  • スタッフ同士のコミュニケーションを重視したオープンなオフィス環境
  • リアルタイムでのレスポンスが期待されるコミュニケーション
  • 24時間常に繋がっているSNSのアクティビティ

がディープワークの希少価値を高めている理由について、次の4つの観点から紐解いていきます。

Deep Workの希少性4つのポイント

  • メトリック・ブラックホール
  • 最小抵抗の法則
  • 忙しさは生産性から逃げる口実
  • インターネット・カルト

それぞれ解説していきます。

メトリック・ブラックホール
The Metric Black Hole

ここでのメトリックとは「評価基準」という意味合いで、すなわちメトリック・ブラックホールとは評価基準が曖昧である状態を表しています。

評価基準が明確だった製造業時代

まだ経済が製造業中心だった時代、生産性を評価する基準は、「どのくらいの期間にどれくらいの製品を生産したか」という絶対的な評価でした。

つまり、「いかに速く正確に手を動かせるか」という明確な評価基準であったため、ディープワークが評価されやすい環境でした。

評価基準が複雑化した現代社会

しかし、仕事のプロセスが複雑化した現代のビジネスでは、何を持って評価するのかが難しくなっています。

例えば、主な要因の一つがメールの送受信です。

現代のビジネスにおいて、メールでのコミュニケーションは欠かせないものとなっており、一日に100通以上のやり取りをしている人も少なくありません。

しかし、この膨大なメールのやり取りをどのように評価すればいいのでしょうか?

  • 文章を読む速さ
  • 読解力
  • タイピングの速さ
  • 誤字脱字の少なさ

という項目は、いちいちトラッキングできるものではありません。

また、「その頻繁なメールのやり取りでどれほどの価値を生み出したか」を正確に推し量ることも極めて困難です。

ディープワークが評価されにくい時代に

また、この頻繁なメールのやり取りによって、本来取り組むべき仕事への集中力が阻害され、間接的に生産性が落ちていることが考えられます。

しかし、その事実も評価対象に入れにくく、メトリック・ブラックホールをさらに大きくしている要因の一つです。

そのため、人々の中でディープワークに対する必要性が薄れ、本当の意味での生産性を追求しにくくなっている社会構造が、ディープワークの希少価値を高める結果となっています。

But without clear metrics to support it, any business behavior is vulnerable to unstable whim and shifting forces, and in this volatile scrum deep work has fared particularly poorly.

Deep Work, P56

最小抵抗の法則
The Principle of Least Resistance

人は本能的に、目の前にあるタスクの中から最も負荷の低いものから手をつける習性があります。

本書ではこれを、「最小抵抗の法則(The Principle of Least Resistance)」と呼んでいます。

こちらもメールのやり取りを例に上げますが、今やるべき重要で困難なタスクが目の前にある時に、一通のメール受信通知を見ると、たとえ優先度が低いとわかっていても、その負荷の少なさに惹かれて、ついメールをチェックしてしまいます。

しかも、メールの場合は、

えいじ

できるだけ早く返信した方がいいもんね…

と、自分を正当化しやすく、ついつい低負荷のタスクに逃げてしまいます。

ある意味では、現代にこれだけのコミュニケーション文化が築かれている理由は、それが他の仕事より簡単だからです。

一方で、ディープワークは脳に負荷(ストレス)を与える行為なので、目の前に簡単なタスクがあるほど、その希少性は高まっていきます。

The Principle of Least Resistance: In a business setting, without clear feedback on the impact of various behaviors to the bottom line, we will tend toward behaviors that are easiest in the moment.

Deep Work, P58

忙しさは生産性から逃げる口実
Busyness as a Proxy for Productivity

製造業時代では、「生産性」を明確に図ることができたので、やるべきことに集中でき、余計なことはする必要がありませんでした。

しかし、現代のナレッジワーカーたちは、自身の生産性を数字で示すことが難しく、その代償として、「どれだけ忙しく働いたか」という眼に見える指標をアピールするようになりました。

つまり、「どれだけ『やった感』を出せるか」という極めて不毛な勝負になっています。

本書の著者はアメリカ人ですが、これは日本のサラリーマン全体に強く蔓延している空気ではないでしょうか。

例えば、「どれだけ価値を生み出したか」ではなく、「どれだけ長い時間働いたか」で評価されてしまうケースです。

そのため、皆競って長時間残業しますが、そのような人たちが生み出した価値は総じて低いということが少なくありません。

そのくせ、優秀な人が自分の仕事を定時までに終えて帰ろうとすると、同調圧力で自分の仕事を手伝わせようとします。

実際は、本当に生産性が高い人は忙しそうに見えません

逆も然りで、あからさまに忙しそうに見えている人の生産性は高くないということが言えます。

Busyness as Proxy for Productivity: In the absence of clear indicators of what it means to be productive and valuable in their jobs, many knowledge workers turn back toward an industrial indicator of productivity: doing lots of stuff in a visible manner.

Deep Work, P64

インターネット・カルト
The Cult of the Internet

インターネット・カルトとは、現代のネット社会を基準とした価値観を危惧した表現です。

現代社会はShallow Work偏重の世界

今の社会では、

  • より速く
  • より広く
  • より新しい

ものが良いとされ、多くの人は「そのスピードについていけない者は生き残れない」という危機感を感じています。

そのため、人々はSNSでの投稿に熱心になりすぎたり、最新のニュースをいち早く知ることに躍起になっているわけです。

しかし、このようなShallow workをいくら積み重ねたところで、プロフェッショナルなクオリティで何かを生み出すことはできません。

Deep Workはトレンドの逆をいく行為

本来の生産性を取り戻すディープワークは、

  • クラフトマンシップ
  • 習熟
  • オールドファッション
  • ローテク

という価値観のもとに存在し、今のトレンドを完全に逆行しています。

現代社会でディープワークを行うこと自体が不利な状況を招く可能性があり、さらには新しいテクノロジーを捨てる覚悟が必要になります。

しかし、周りを見渡してみて、どれほどの人がこのキラキラした世界から脱する覚悟を持っているでしょうか。

そこに、ディープワークのリアルな希少価値を感じるはずです。

In such a culture, we should not be surprised that deep work struggles to compete against the shiny thrum of tweets, likes, tagged photos, walls, posts, and all the other behaviors that we’re now taught are necessary for no other reason than that they exist.

Deep Work, P70

『Deep Work』はAudibleで聴けます

まとめ

ディープワークの希少価値【まとめ】

  • メトリック・ブラックホール
    • 現代社会では、仕事の評価基準が曖昧なため、ディープワークの必要性が低くなっている
  • 最小抵抗の法則
    • 人は本能的に最も負荷の低いタスクから手をつける
  • 忙しさは生産性から逃げる口実
    • 現代のナレッジワーカーたちは、自身の生産性を「どれだけ忙しく働いたか」という指標でアピールする
  • インターネット・カルト
    • ディープワークは現代社会の価値観を逆行する行為
    • ディープワークを行うには、新しいテクノロジーを捨てる覚悟が必要

「スピード」「汎用性」「及第点」という価値が求められている現代社会において、あえてディープワークで鍛錬するというのは時代遅れの根性論に見えるかもしれません。

しかし、そういう時代だからこそ、ディープワークで生み出した圧倒的なオリジナリティとクオリティが輝いて見えるという側面もあります。

特に最近は、AIで及第点以上のものを一瞬で生成できてしまう時代です。

それでよしとするのか、あえて己の道を極める道を選ぶのか、それは個人の生き方に対する価値観によって決まります。

つまりは、「自己実現」という根本的なテーマに辿り着きます。

次回は、「ディープワークの重要性」というテーマについて、深掘りしたいと思います。

それではまた、次の記事でお会いしましょう。

AI時代にあえて自分の言葉を磨きたい人へ

Contents